読書好きなしがないサラリーマンの日常

日々の生活を何とかかんとか乗り切るブログ

週に5日も働くのをデフォにしたのは誰なのか・・・

どうやら会社の昇格試験に落ちたらしい。仕方ないね、こういうのは落ちる時は落ちるし受かる時は受かるもんだよ。本気で勉強するのは人生の節目くらいで後はのんびり生きたいのが俺のスタンス。金なんていくらあったって夢がなければ虚しいだけなのさ。

 

さて、さっそく即興でショートショート的なものを書いてみた。タイトルはない。せっかく書いたし一応上げてみよう。段々上手くなっていけたらいいな。しかし仕事終わりから書くと思いの外きついな・・・。

後は眠るだけ。

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 その青年は都内にアパートを借りて一人で暮らしていました。年齢は二十代後半でシステムエンジニアとして働いています。仕事柄残業が多く繁忙期は目が回るほどの忙しさです。その分給料の待遇が良く、社内の人間関係も悪くないため日々の生活に不満はありません。

 ある日のことです。青年はいつものように仕事から帰宅して明日に備えて眠りに着く頃、ふと違和感を覚えました。

 最初は気のせいかと思いましたが、耳を済ましてみると暗い部屋の中で確かに声が聞こえてくるのです。もっとも声はとても小さく何を言っているのかまではわかりません。声の調子から、どうやら若い女性であることがわかります。青年は思わず部屋の明かりをつけました。

「誰かいるのか?」

 青年は声の主に問いかけます。しかし、部屋の中には誰もいませんでした。不自然な程の静けさが耳につくばかりです。なんだか青年は腑に落ちませんでしたが、疲れて気が張り詰めているだけなのかもしれないと自分を納得させます。聞こえもしない声に煩わされるなんて馬鹿みたいだと自嘲し、再び部屋の電気を落としベッドに横になりました。今度こそちゃんと寝るぞと気を取り直します。しかし、その日を境に男は夜な夜な聞こえてくる女の不気味な声に悩まされることになるのでした。

 

「最近なんだか元気がないみたいだな」

 仕事をしていると上司が声をかけてきます。

「いや、あまり眠れていないんです」

 青年の口調は弱々しくいつもの元気はありません。

「どうやら質の悪い女の霊に取りつかれているみたいなんです」

続けてそんな風に説明しようとしましたが、思い直して口をつぐみます。どうせ仕事のしすぎで頭がおかしくなってしまったに違いないと、どうにも嫌な感じの気遣いをされるだけに決まっているからです。

 

 青年は久しぶりに定時で仕事を切り上げると、いつもは通り過ぎてしまうだけの駅で降り、目的もなく駅前を散策してみることにしました。気分転換でもしたらどうかといった同僚の言葉もあり、気の向くまま街中を歩いてみたくなったのです。

 街を彷徨ってしばらくすると、青年はとある古びた雑居ビルの前までやってきました。一応雑貨屋の看板が掲げられていることもあり、気まぐれに店を覗いてみることにしました。建物にはエレベーターが設置されておらず、ひび割れたコンクリートの外壁からも築年数の経過がうかがえます。

 

 階段を登り店に入ります。カウンターにいるメガネをかけた店主はいかにも生真面目そうな男で、青年と同じくらいの年齢に見えます。また、どこか浮世離れした不思議な雰囲気を持った男でした。

 青年は、これも気分転換の一つになるかなと考え男に話かけました。実際のところは単なる世間話を殆ど青年が一方的に喋っているだけでした。しかし、店主は時折相槌を打つなどして耳を傾けてくれました。会話の流れの中で、やがて話題は件の女幽霊の話になりました。

「ここだけの話、俺は霊に取りつかれちまったらしくてね。こんなこと会社の奴等には相談できないし、かと言って医者にかかるのもそれはそれで気が引けるというか・・・」

 青年は暗澹たる気持ちになり重い溜息をつきました。最近は心底参っていることもあり、体調も悪くなる一方です。その様子を見ていた男が口を開きます。

「このお店にある品は基本的に僕が海外に行って直接仕入れてきたものばかりなのですが、実は先日丁度面白いものを買い付けましてね」

 少し待っていて下さいと言い残し、男はカウンターの奥の部屋へ引っ込んでしまいます。やがて戻ってきた彼の手には、鳥の形を模した木彫り細工が収められていました。

「海外の商人の話によりますと、この木彫り細工には霊避けの効果があるみたいです。まあ本当に効くかと言われると眉唾ですが」

 男の説明を聞きながら青年は木彫り細工に視線をやります。この店に来たのも何かの縁だと思い、結局その日は店主から勧められた品を買って帰ることにしました。霊避けの効果にはさほど期待していませんでしたが、話を聞いてくれたお礼にでもなればとの思いでした。

 

 鳥の木彫り細工を購入してから二週間程が経ちました。当初の青年の予想とは裏腹に、その日の夜から霊の声は聞こえなくなりました。久方ぶりに誰にも邪魔されずゆっくりと眠ることができ、青年の体調も徐々に回復していきました。仕事も順調そのもので、つい先日まであった気分の落ち込みが嘘のようでした。

 

「どうやら木彫り細工には本当に霊避けの効果があるらしい。不思議な話もあるものだ」

会社からの帰り道、青年はぼんやりとそんなことを考えていました。

「うわっ!」

 考え事をしながら歩いていたせいか、正面から走ってくるトラックに気がつくのが遅れました。青年は思わず身をこわばらせ目をつぶってしまいます。しかし、ゆっくりと目を開けるとトラックは既に青年の後方へ走り去っていくところでした。余程急いでいるのか、随分と運転の荒いトラックでした。青年は運転手に文句の一つも言いたくなりましたが、今となってはどうすることもできません。

 

 その日の夜、青年はまたしても体調の悪さを感じました。ここ最近は特に調子の良い日々を過ごしていただけに余計に鬱々とした気分になります。しかも普通の風邪とはまた違った感覚があります。恐らくまたあの霊の呪いにかかってしまったに違いなさそうだとうんざりします。

 幸い今日は祝日ということもあり、青年は再び木彫り細工を購入した雑貨屋へとやってきました。あの店主ならばまた何か面白い品を売ってくれるに違いないと思いました。そう考えると心なしか家にいた時よりもいくらか気分が楽になってきたようでした。

店までやってくると、男は変わらずそこにいました。青年はあの日から今日までの経緯を簡単に話しました。

「君から買った品は実に良い効果があったんだ。その日から女の霊は姿を現さなくなったからね。それからしばらくの間は調子がよかったんだ。だけどまた昨日からどうも身体の調子が悪くてね。ただの風邪ってわけでもなさそうだし困ってるんだ。悪霊の呪いか何かじゃないかと」

 青年の話をひとしきり聞いた後になっても、店主はしばらく押し黙ったままでした。それはどこか話をすることに躊躇いを感じている風でもありました。

「なるほど、話はわかりました。原因は恐らくあの時購入された木彫り細工です」

「なんだって?」

 青年は思わず声をあげました。あれは単なる霊避けではないのかと困惑します。

 そこでふと店においてあるテレビに目が行きます。テレビには今まさに朝のニュースが映し出されているところです。内容は昨日起きたトラックのひき逃げ事件でした。犯人は今もまだ捕まっていないとのことです。そして、その被害者は二十代後半のシステムエンジニアの男性でした。

「あの木彫り細工はあなたも知っての通り霊避けの効果があります。大変申し上げにくいのですが、つまり今のあなたは―――」

 店主の言葉に青年は思わず顔をひきつらせました。